CQ5 高齢者初発膠芽腫に対して手術後どのような治療が推奨されるか?
 推  奨 1 
高齢者においてもまず放射線治療を考慮する。(推奨グレードB)
 推  奨 2 
高齢者においては,線量の減量と照射期間の短縮を考慮してもよい。(推奨グレードB)
 推  奨 3 
高齢者において,MGMT遺伝子プロモーター領域メチル化症例はテモゾロミド単独療法も治療選択肢として考慮してもよい。(推奨グレードC1)
 推  奨 4 
高齢者において,放射線治療後にテモゾロミド補助化学療法を考慮してもよい。(推奨グレードC1)
 解  説 
 膠芽腫において単独で最も検出力の高い予後因子は年齢である。カナダOntario州でのpopulation—basedの調査では,1982~1994年の3,298例の膠芽腫患者における生存期間中央値は高齢になるにつれて悪化が著しく,特に70歳を超える患者では生存期間中央値は4~5カ月であった1)(レベルⅢ)。加えて,70歳以下の成人膠芽腫に対する標準治療を確立したStuppらの第Ⅲ相試験における副次的解析では,患者が高齢になるほどハザード比が上昇するする,すなわちテモゾロミドの上乗せ効果が薄れることが示されている2,3)(いずれもレベルⅠb)。
 これらの状況を踏まえ,高齢者初発膠芽腫・悪性神経膠腫の治療を考えるうえで示唆に富む臨床研究がなされている。
 70歳以上の初発退形成性星細胞腫または膠芽腫で70以上のKPSスコアを有する85例の患者において放射線治療(50 Gy,1.8 Gy/日)治療とbest supportive careを比較する第Ⅲ相試験が行われている。85例の対象者の年齢中央値は73歳(70~85歳)であった。中間解析において放射線治療群の優越性が明らかとなったため,試験が中止となった。生存期間中央値はそれぞれbest supportive care群 16.9週,放射線治療群が29.1週であった(HR=0.47,95%CI:0.29—0.76,p=0.002)4)(レベルⅠb)。また,60歳以上の初発膠芽腫患者100例を対象とした標準照射法60 Gy/30 frに対する短期照射法40 Gy/15 frの非劣性を検討するランダム化比較試験では,6カ月生存割合,全生存期間ともに短期照射法の標準照射法に対する非劣性が証明された(HR=0.89,95%CI:0.59—1.36,p=0.57)。生存期間中央値はそれぞれ5.1カ月と5.6カ月,6カ月生存割合はそれぞれ44.7%,41.7%であった5)(レベルⅠb)。
 Brandesらは,65歳以上の初発膠芽腫患者75例に対して放射線単独治療(59.44 Gy/33回,1.8 Gy/日)(1993~1995年),同放射線治療後PCV〔プロカルバジン(procarbazine),ロムスチン(lomustine:CCNU),ビンクリスチン(vincristine)〕維持化学療法(1995~1997年),および同放射線治療後テモゾロミド維持化学療法(150 mg/m2/日,5—day on/23—day off)(1997~2000年)の3群を行い,3群の治療成績を比較する第Ⅱ相試験を行っている6)(レベルⅡb)。この研究の結果,3群の生存期間中央値はそれぞれ11.2カ月(95%CI:9.43—13.35),12.7カ月(95%CI:11.2—18.74)そして14.9カ月(95%CI:13.37—24.35)となり,放射線治療後テモゾロミド維持化学療法群は放射線単独治療群と比較して有意な優越性が認められた。通常放射線治療後にテモゾロミド維持化学療法を行うことが高齢者において有効である可能性が示された。
 ドイツのNeurooncology Working GroupによるNOA—08試験は,2005~2009年の期間において,KPSスコアが60以上で,65歳以上の退形成性星細胞腫または膠芽腫患者406例(膠芽腫患者が約9割を占める)に対して,放射線治療(54~60 Gy)群に対する増量テモゾロミド(1日投与量100 mg/m2,1—week on/1—week off)群の非劣勢を検証する第Ⅲ相ランダム化比較試験である。Primary endpointは全生存期間とし,非劣勢マージンは25%とした。生存期間中央値は,放射線治療群9.6カ月(95%CI:8.2—10.8),テモゾロミド群8.6カ月(95%CI:7.3—10.2)(HR=1.09,95%CI:0.84—1.41,p=0.033)で,有害事象も容認できる範囲であったため,テモゾロミド単独投与治療の非劣勢が示された7)(レベルⅠb)。さらにはMGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化症例においてテモゾロミド単独投与治療は選択肢の一つとなり得ることが示された。
 しかし,逆にMGMT遺伝子プロモーター領域非メチル化症例においてテモゾロミド単独投与治療は放射線単独治療より全生存期間,無増悪生存期間が有意に短縮する傾向になることも判明し,採取組織のMGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化測定を行わない場合には,放射線治療を第一治療選択とすべきである7)(レベルⅠb)。なお,MGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化測定は保険承認・償還されていない検査である。
 Nordic研究は,60歳以上の初発膠芽腫342例に対して,放射線治療(60 Gy,1日2 Gy,6週間)群(100例)を標準治療とし,短期放射線治療(34 Gy,1日3.4 Gy,2週間)群(123例),テモゾロミド(200 mg/m2/日,5—day on/23—day off)による6サイクルの化学療法群(119例)の試験治療,それぞれの優越性を検証するランダム化第Ⅲ相試験である8)(レベルⅠb)。全生存期間をprimary endpointとした。3群の生存期間中央値は,それぞれ6カ月(95%CI:5.1—6.8),7.5カ月(95%CI:6.5—8.6),8.3カ月(95%CI:7.1—9.5)であり,テモゾロミド群は標準放射線治療群に対して有意な生存期間の延長を示したが(HR=0.70,95%CI:0.52—0.93,p=0.01),短期放射線治療群は標準的放射線治療群に比較して有意な生存期間延長を示すことはできなかった(HR=0.85,95%CI:0.64—1.12,p=0.24)。70歳以上の患者に限定すれば標準放射線治療群に比べて短期放射線治療群,テモゾロミド群はそれぞれ有意に生存期間の延長が認められた(短期放射線治療群 HR=0.59,95%CI:0.37—0.93,p=0.02,テモゾロミド群 HR=0.35,95%CI:0.21—0.56,p<0.0001)。また70歳以上の患者において短期放射線治療群とテモゾロミド群の間には全生存割合において有意差は観察されなかった(HR=0.72,95%CI:0.50—1.05,p=0.09)。テモゾロミド群においてMGMT遺伝子プロモーター領域メチル化症例は非メチル化症例に比べて生存期間の延長が観察されたが(HR=0.56,95%CI:0.34—0.93,p=0.02),標準あるいは短期照射群全体の中ではMGMT遺伝子プロモーター領域メチル化は生命予後に影響を与えなかった。テモゾロミド群ではグレード3/4の好中球減少(12例),血小板減少(18例)が観察されており,高齢者ではよりきめ細かい治療管理が要求されることを示唆している。
 現在までに高齢者初発膠芽腫に対して6週間60 Gy照射,あるいは短期間照射に併用して連日テモゾロミドを投与する治療に関する前方視的試験は報告されていない。後方視的解析として,Memorial Sloan Kettering Cancer Centerから1987~2008年までに同病院で経験した65歳以上の膠芽腫291例を治療法別に比較検討した報告がある9)(レベルⅢ)。65~70歳まで146例,71歳以上145例,放射線治療法として二次元照射48例,三次元原体照射132例,強度変調放射線治療(intensity—modulated radiotherapy:IMRT)111例で,これらのなかには短期間照射例(症例数は不明)も含まれている。291例中,照射時期にテモゾロミド連日投与を併用した症例は115例(40%)であった。多変量解析により予後に好影響を及ぼした因子は71歳未満,RTOG RPAクラスⅣ,亜全摘以上の摘出術,テモゾロミドを放射線治療に併用すること,の4因子であった。しかし,テモゾロミドを放射線治療に併用していない症例は2002年以前の症例,かつ二次元照射例が大多数であり,また,併用群の中には短期照射とテモゾロミドの併用例も含まれていることなど,大きな選択バイアスが包含されている可能性のある検討といえる。現在NCICとEORTCの共同研究で短期照射を標準治療群として短期照射時の連日テモゾロミド併用に加えて終了後6サイクルのテモゾロミド維持化学療法を行う治療群のランダム化第Ⅲ相試験が進行中である。
 以上の試験を総括すると,高齢者の初発膠芽腫患者においては,生存期間延長の観点からは術後放射線治療を考慮することが重要であり,放射線治療後の化学療法も一つの選択肢である。放射線治療は60 Gy/6週間の通常照射に比べて短期照射(34 Gy/2週間,40 Gy/3週間など)が有望である。手術後,採取組織のMGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化を検討し,メチル化症例においてはテモゾロミド単独治療も選択肢となり得ることが示されている。一方で放射線とテモゾロミド同時併用の有効性・安全性については今後の検討課題となっている8)(レベルⅠb)。

<注意>
 テモゾロミド1—week on/1—week off投与:添付文書に記載された投与法・投与量以外の投与方法
 MGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化測定:保険承認,保険償還されていない検査法

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1) Paszat L, Laperriere N, Groome P, et al. A population—based study of glioblastoma multiforme. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2001;51(1):100—7.(レベルⅢ)
2) Stupp R, Mason WP, van den Bent MJ, et al. European Organisation for Research and Treatment of Cancer Brain Tumor and Radiotherapy Groups;National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group. Radiotherapy plus concomitant and adjuvant temozolomide for glioblastoma. N Engl J Med. 2005;352(10):987—96.(レベルⅠb)
3) Stupp R, Hegi ME, Mason WP, et al. European Organisation for Research and Treatment of Cancer Brain Tumour and Radiation Oncology Groups;National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group. Effects of radiotherapy with concomitant and adjuvant temozolomide versus radiotherapy alone on survival in glioblastoma in a randomised phaseⅢ study:5—year analysis of the EORTC—NCIC trial. Lancet Oncol. 2009;10(5):459—66.(レベルⅠb)
4) Keime—Guibert F, Chinot O, Taillandier L, et al. Radiotherapy for glioblastoma in the elderly. N Engl J Med. 2007;356(15):1527—35.(レベルⅠb)
5) Roa W, Brasher PM, Bauman G, et al. Abbreviated course of radiation therapy in older patients with glioblastoma multiforme:a prospective randomized clinical trial. J Clin Oncol. 2004;22(9):1583—8.(レベルⅠb)
6) Brandes AA, Vastola F, Basso U, et al. A prospective study on glioblastoma in the elderly. Cancer. 2003;97(3):657—62.(レベルⅡb))
7) Wick W, Platten M, Meisner C, et al. Temozolomide chemotherapy alone versus radiotherapy alone for malignant astrocytoma in the elderly:the NOA—08 randomised, phase 3 trial. The Lancet Oncol-ogy. 2012;13(7):707—15.(レベルⅠb)
8) Malmström A, Grnberg BH, Marosi C, et al. Temozolomide versus standard 6—week radiotherapy versus hypofractionated radiotherapy in patients older than 60 years with glioblastoma:the Nordic randomised, phase 3 trial. The Lancet Oncology. 2012;13(9):916—26.(レベルⅠb)
9) Barker CA, Chang M, Chou JF, et al. Radiotherapy and concomitant temozolomide may improve survival of elderly patients with glioblastoma. J Neurooncol. 2012;109(2):391—7.(レベルⅢ)

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