CQ2 転移性脳腫瘍の治療において薬物療法(分子標的治療薬を含む)はどう選択するのか?
 推  奨 1 
症候性または近い将来に脳局所治療を必要とする転移性脳腫瘍では,原則として放射線治療または腫瘍摘出術を優先する。(推奨グレードA)
 推  奨 2 
薬物療法に高感受性とされる腫瘍では,全身薬物療法を単独または転移性脳腫瘍への局所治療と並行して行う。(推奨グレードB)
 推  奨 3 
推奨2に該当しない固形腫瘍では,頭蓋外に明らかながん病変があり,かつ転移性脳腫瘍による症状がない場合には,転移性脳腫瘍および頭蓋外病変への効果を期待して全身薬物療法を優先してもよい。(推奨グレードC1)
 推  奨 4 
髄膜がん腫症では,それぞれの腫瘍の薬物療法感受性を根拠として全身薬物療法または抗がん薬の髄腔内投与を行ってもよい。(推奨グレードC1)
 解  説 
 一般に薬物療法の転移性脳腫瘍に対する局所効果は放射線治療や腫瘍摘出術と比較して劣るため,症状を有する転移性脳腫瘍では原則として放射線治療または腫瘍摘出術を優先する。
 がん薬物療法の進歩による予後の改善とともに,転移性脳腫瘍が特に無症状で発見される機会が増えている。これら転移性脳腫瘍に対する全身薬物療法の適応は,血液脳関門による薬物分布の制限を考慮しつつも,それぞれの腫瘍の薬物療法に対する感受性を根拠として判断する。特に良好な予後が期待できる場合には,全脳照射による晩期障害の回避を目的に薬物療法を優先してもよい。
1.脳転移を有する,薬物療法に高感受性とされる腫瘍(頭蓋内原発を除く胚細胞腫瘍,絨毛がんあるいは中枢神経原発を除く悪性リンパ腫など)
 転移性脳腫瘍に対しても全身薬物療法は有効な治療手段であるため,全身薬物療法を単独,または転移性脳腫瘍への局所治療と並行して行う。
 中枢神経系原発を除く非ホジキンリンパ腫の中枢神経系への転移はほとんどが髄膜がん腫症である。中枢神経系への移行が良好であるメトトレキサート(methotrexate:MTX)の高用量全身投与(3g/m2以上)を含む薬物療法を行う。髄膜がん腫症では抗がん薬の髄腔内投与を考慮するが,MTXやシタラビンが使用される。脳転移または髄膜がん腫症を有する20例の後方視的検討では,高用量MTXとイホスファミドの全身投与により12例の完全奏効(CR)と6例の部分奏効を認めた1)(レベルⅢ)。中枢神経病変に対するリツキシマブの全身投与の意義は明らかではない。
 非ホジキンリンパ腫のうち,特に中枢神経再発のリスクが高い場合には,予防的に高用量MTXの全身投与または抗がん薬の髄腔内投与を行う。標準治療であるR—CHOP(抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブ,シクロホスファミド,ビンクリスチン,ドキソルビシン,プレドニゾロン)に高用量MTXを併用した65例の後方視的解析によると,中枢神経系の再発は2例(3%)に認めた2)(レベルⅢ)。また,全身薬物療法によりCRが得られた68例のうち,髄腔内投与を行わなかった39例では中枢神経系の再発を6例(15%)に認めたが,予防的にMTXとヒドロコルチゾンの髄腔内投与を行った29例では中枢神経系の再発を認めなかった3)(レベルⅡa)。

 頭蓋内原発を除く胚細胞腫瘍の転移性脳腫瘍患者では,全身薬物療法を初回治療として単独,または脳局所の放射線治療もしくは腫瘍摘出術と併用して行う4)(レベルⅢ)。薬物療法未実施の小細胞肺癌の転移性脳腫瘍患者では,転移性脳腫瘍に対する腫瘍縮小効果は頭蓋外病変と同等という報告と頭蓋外病変と比較して低いという報告がある5)(レベルⅢ)。
2.無症状の脳転移を有する,薬物療法に高感受性とはされない固形腫瘍
 頭蓋外に明らかながん病変があり,かつ転移性脳腫瘍による症状がない,または近い将来において脳局所治療を必要としない場合には,それぞれの腫瘍の薬物療法に対する感受性を根拠として全身薬物療法を行ってもよい。全身薬物療法によって転移性脳腫瘍および頭蓋外病変への効果が期待できるため,頭蓋外病変のコントロールによる予後の改善,全脳照射を遅らせることによる晩期障害の回避が期待できる可能性がある。髄膜がん腫症に対するMTXの髄腔内投与の有用性は十分には確立されておらず,血液毒性や薬剤性白質脳症などの副作用が問題になる。乳がん,肺がん,悪性リンパ腫を含む髄膜がん腫症52例に対してMTXまたはチオテパ(国内販売中止)の髄腔内投与を比較した試験では,16例(31%)で髄液細胞診は陰性となったが,いずれにおいても神経症状の改善は得られず,39例(75%)は8週以内に神経症状が増悪した6)(レベルⅠb)。
 乳がんの転移性脳腫瘍患者または髄膜がん腫症に対して,経口フッ化ピリミジン薬であるカペシタビンの有効性を示す症例報告がある7)(レベルⅣ)。ヒト上皮成長因子受容体HER2/neu陽性乳がんでは,抗HER2モノクローナル抗体であるトラスツズマブによる予後の改善と,トラスツズマブの脳内移行が血液脳関門のために不良であることから,これらの結果として転移性脳腫瘍をきたす症例が増加している。脳転移による症状がないHER2陽性乳がんの転移性脳腫瘍患者では,HER2およびEGFRの2つのチロシンキナーゼ受容体を阻害する経口の低分子化合物ラパチニブとカペシタビンの併用療法を行ってもよい。フランスで行われた第Ⅱ相試験(LANDSCAPE試験)では,44例のうち29例(66%)で転移性脳腫瘍の縮小が認められ,病勢進行までの期間中央値は5.5カ月であった8)(レベルⅡb)。この試験には頭痛などの軽度の神経症状を有する患者が含まれており,そのうち6割で症状の改善を認めた。乳がんの髄膜がん腫症に対してMTXの髄腔内投与が行われることがあるが,小規模の比較試験によると全身投与のみと比較して髄腔内投与を併用する意義は認められていない9)(レベルⅡa)。
 非小細胞肺癌では無症状の転移性脳腫瘍を有する患者に対する初回治療としての全身薬物療法の有用性を示す報告がある。全身薬物療法を行った群と全脳照射後に全身薬物療法を行った群を比較した試験では,薬物療法による頭蓋内外の腫瘍縮小効果はほぼ同等であり,また両群間の生存期間に差を認めなかった10)(レベルⅠb)。また,無症状の転移性脳腫瘍を有する43例に対して,初回治療としてシスプラチンとペメトレキセドの併用療法を行った第Ⅱ相試験では,転移性脳腫瘍の縮小を18例(42%)に認めた11)(レベルⅡb)。一方,上皮成長因子受容体(EGFR)変異を有する非小細胞肺癌では,EGFRチロシンキナーゼ阻害薬ゲフィチニブやエルロチニブによる転移性脳腫瘍や髄膜がん腫症に対する効果が報告されている12)(レベルⅠa)。
 腎がんでは,スニチニブを中心とするチロシンキナーゼ阻害薬など分子標的治療薬により治療効果が飛躍的に向上しており,転移性脳腫瘍を有する場合の安全性について報告されている。スニチニブの拡大アクセス(患者救済のために未承認薬の使用を認める制度)の対象となった患者の後方視的解析では,転移性脳腫瘍を有する213例のうち26例(12%)に腫瘍縮小を認めた13)(レベルⅢ)。一方,ソラフェニブの欧州における拡大アクセスの解析では,転移性脳腫瘍を有する28例の安全性と無増悪生存期間は全体1,150例と同等であった14)(レベルⅢ)。アキシチニブ,mTOR阻害薬テムシロリムスやエベロリムスによる腎がんの転移性脳腫瘍に対する効果は明らかではない。
 悪性黒色腫では,従来の殺細胞性抗がん薬の有効性は確立しておらず,腫瘍摘出術と放射線治療が主体である。しかし,細胞障害性Tリンパ球抗原4(CTLA—4)に対するモノクローナル抗体イピリムマブ15)(レベルⅡa),BRAF遺伝子変異(主にV600E)を有する悪性黒色腫ではBRAFキナーゼ阻害薬ベムラフェニブやダブラフェニブの転移性脳腫瘍に対する有効性が報告されており16,17)(それぞれレベルⅣ,Ⅲ),近い将来に治療戦略が大きく変貌すると予想される。
 高分子化合物であるモノクローナル抗体薬は血液脳関門を通過しないため,通常は全身投与による転移性脳腫瘍への効果は期待できない。血管内皮細胞増殖因子(vascular endo-thelial growth factor:VEGF)に対するモノクローナル抗体であるベバシズマブは大腸がん,肺がん,乳がんに対して殺細胞性抗がん薬と併用で用いられるが,転移性脳腫瘍からの出血のリスクについては慎重に判断する。しかし,転移性脳腫瘍があるという理由のみで一律に投与回避する必要はなく,非小細胞肺癌では転移性脳腫瘍に対する有効性を示唆する報告がある18,19)(それぞれレベルⅠa,Ⅱb)。
 放射線増感作用を期待して,あるいは全身薬物療法として抗がん薬を放射線治療に同時併用する治療法の有用性は確立してない。非小細胞肺癌では,全脳照射とエルロチニブの併用によって中枢神経系病変に高い奏効割合が認められたという報告と,全脳照射+定位放射線照射とエルロチニブまたはテモゾロミドの併用によって副作用が増強し生存期間が短縮する傾向にあったという報告があり,日常臨床で放射線治療にエルロチニブを併用するだけの十分なエビデンスはない20,21)(それぞれレベルⅡb,Ⅰb)。
◆文  献  成人転移性脳腫瘍CQ2構造化抄録一覧をダウンロード(エクセル形式)
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