(Ⅳ)推奨
2. 手術:CQ3
  2.1 サマリー
CQ3:非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対する外科的摘出は,急性症候性となってから行われる場合と比較して有用か?
推奨:非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して,外科的摘出は,急性症候性となる前に外科的摘出を行うことを提案する。(2C
  2.2 解説
  (1)CQの設定
 International Tuberous Sclerosis Complex Consensus 2012には,SEGAに対する唯一の治療法は外科的切除であると記載されている。SEGAは急性症候性・非急性症候性・無症候性(腫瘍増大あり)・無症候性(腫瘍増大なし)の4つの病態に分類可能であるが,手術療法を適応する上で一番問題となるのは,非急性症候性または無症候性(増大あり)の場合であり,下記のようなクリニカルクエスチョンとアウトカムを作成した。
CQ:非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対する外科的摘出は,急性症候性となってから行われる場合と比較して有用か?
    アウトカム: 1)有害事象・QOL低下
2)全摘出率
3)再発率・再摘出率
  (2)推奨の解説
 SEGAは全摘出することにより完治せしめることが可能である4)。急性症候性では生命の危機から脱却するために手術摘出が最優先される5)。また無症候性(腫瘍増大なし)の場合は経過観察で構わない。これらに関しては同意が得られている。
 非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対しての最良の治療選択肢を決めるには,意志決定過程において,①予想される腫瘍拡大速度,②mTOR 阻害薬使用時の期待される腫瘍抑制効果と長期使用による合併症,③手術合併症リスク・有害事象,④費用,⑤治療期間,⑥結節性硬化症関連併存疾患への影響度,について考慮する必要がある4,5)。①については腫瘍増大速度は個人差が大きく予測困難,②は現時点で不明である。③と⑤に関しては,後述のように多分に術者の技量に依存し施設間較差が大きいために一般化することができない。④に関しては,結節性硬化症は,2015年7月に難病指定を受けており,成人も含め医療経済的には負担が軽減されているが,検査,治療,入院に伴う負担は小さくない。手術効果による医療費減免効果は不明である。⑥は個別に検討せざるを得ない。以上のような理由に加えて,それぞれの治療方法に対する患者(家族)の理解度の違いと治療に対する好みが加わるため,この治療に対する患者(家族)の意向は,大きくばらつくと考えられる。
 残念ながら,過去の報告からSEGAに対する手術による有害事象発生率・全摘出率・再発率・再摘出率といった確率に対しては全く返答不能であり,QOL低下・水頭症の改善・予防といった内容に関しては定性的返答さえも不可能であった。
 合併症発生に関して,わずかながらKotulska(Poland)1),2014とHarter(USA),20142)の論文が論じている。Kotulskaらの論文1)では,Polandの多施設において2000~2012年に治療した57例(64腫瘍)中4例(6.2%)が術後に死亡している。死亡4例のうち,3例が術後7日以内の死亡であり,1例は痙攣重積,1例は後出血,1例は心停止であった。残る1例は残存腫瘍の急な増大に伴う急性水頭症で3カ月後に死亡していた。手術合併症は,片麻痺,水頭症,出血,認知機能低下が主なものであった。手術合併症発生率は腫瘍径<2cm,2~3cm,3~4cm,>4cm,両側性腫瘍でそれぞれ0%,30.8%,66.7 %,73%, 67%であった。また,3歳以下の小児や症候性の症例に頻度が高い傾向を認めた。以上より,予後不良因子としては,3歳未満,両側性腫瘍,腫瘍径2cm以上,症候性,部分切除,を指摘している。一方Harterらの論文2)では, New York University Langone Medical Center単施設において1997~2011年に治療した18例(22腫瘍)を検討し,手術死亡はなく,急性合併症発生頻度は例中2例で,いずれも回復したと報告している。彼らは90.9%に全摘出もしくはほぼ全摘出に近い亜全摘出を達成し,これらの再発はなかったものの,全体の半数に脳室腹腔短絡術が必要であったことを注意している。ちなみに過去の報告では,脳室腹腔短絡術は6~27%で行われていた。
 手術時期を考える上で,合併症発生率は腫瘍径が2~3cm以下での治療成績が良好であるという報告が多く1,4,6,7),手術決断の一つの目安にはなるかもしれない。しかし,ゆっくりと進行し,しかもある年齢(20歳代半ば)に達すると腫瘍拡大が停止する5)腫瘍に対して,必ず合併症発生のリスクを伴う手術介入時期の決定はやはり難しい。その理由は,前述のように,①腫瘍増大速度は個人差が大きく拡大速度を予想する方法がないために,「急性症候性になる前」を正確に判断することができないこと,②mTOR阻害薬2,4,5,8)が使用可能となっているものの,非急性症候性または無症候性(増大あり)の段階で,この薬剤を使用した後の反応性と長期投与による合併症発生が予想できないこと,が主な理由となる。今後この2点を解明しない限り,手術時期の推奨は明らかにはできないと考えられる。
 特殊な事例としてcongenital(neonatal)SEGA3,9)・両側性病変があげられるが,前者に対しては,生後待機的に手術を行うことで良好な予後が得られる可能性が示唆されているため,できれば新生児期を過ぎるまで水頭症を管理して経過を見た上での摘出3)を,後者に対しては二期的手術も考慮すべきであると報告2)されている。
  2.3 システマティックレビュー結果
   このクリニカルクエスチョンに答えるために,下記検索式にて2015年11月に文献検索を行った。
 
# 検索式 文献数
#1 "subependymal giant cell"[All Fields] 390
#2 (Astrocytoma/surgery[mesh] OR Brain Neoplasms/surgery[mesh] OR Brain/surgery[mesh] OR Neurosurgical Procedures[mesh] OR Microsurgery[mesh])  
#3 #1 AND #2 79
   この79論文すべてに対してシステマティックレビューを行い,まず構造化抄録を作成した。
 この結果,エビデンスとしては前向き比較試験は存在せず,サンプルサイズとしても最大で57例(Kotulska,2014)の後方視的検討であった。したがって手術療法に関して学術的検討を行うデータはほとんどcase report,case seriesに頼るしかなかった。
 アウトカムとして設定した3項目に,バイアスリスクなくアウトカムに答えることのできる論文は基本的に存在していなかった。この中である程度参考になる論文として,Kotulska,20141)とHarter,20142)の論文が挙げられるが,有害事象発生率・全摘出率・再発率・再摘出率といった確率に対しては全く返答不能であり,QOL低下・水頭症の改善・予防といった内容に関しては定性的返答も不能であった。
 したがって,手術療法で設定した今回のクリニカルクエスチョンに対しての推奨文は, case report,case seriesと3つのInternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012の報告4,5,9)を定性的にまとめたものとなった。
 非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対する手術療法を選択する上で,一番問題となるのは,そのタイミングであるが,自然経過の中での腫瘍増大の予測と,mTOR阻害薬使用後の腫瘍抑制効果の2点がポイントとなると思われる。前者に関しては画像followと腫瘍拡大に関する論文から4~5mm/年というデータが存在するが確証されておらず,後者に関してはmTOR阻害薬使用後の超長期成績が存在しないために,現時点ではやはり明らかなデータが存在しないと言わざるを得ない。
 推奨の決定は,委員全員の投票により行われたが,7割以上の賛成で原案の推奨文が可決された。
2.4 引用文献
【システマティックレビュー採用論文】
1) Kotulska K, Borkowska J, Roszkowski M, et al. Surgical treatment of subependymal giant cell astrocytoma in tuberous sclerosis complex patients. Pediatr Neurol. 2014; 50(4): 307-12.
[PMID: 24507694]
2) Harter DH, Bassani L, Rodgers SD, et al. A management strategy for intraventricular subependymal giant cell astrocytomas in tuberous sclerosis complex. J Neurosurg Pediatr. 2014; 13(1): 21-8.
[PMID: 24180681]
3) otulska K, Borkowska J, Mandera M, et al. Congenital subependymal giant cell astrocytomas in patients with tuberous sclerosis complex. Childs Nerv Syst. 2014; 30(12):2037-42.
[PMID: 25227171]
【その他の参考論文】
4) Roth J, Roach ES, Bartels U, et al. Subependymal giant cell astrocytoma: diagnosis, screening, and treatment. Recommendations from the International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012. Pediatr Neurol. 2013; 49(6): 439-44.
[PMID: 24138953]
5) Krueger DA, Northrup H; International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Group. Tuberous sclerosis complex surveillance and management: recommendations of the 2012 International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference. Pediatr Neurol. 2013; 49(4): 255-65.
[PMID: 24053983]
6) Berhouma M. Management of subependymal giant cell tumors in tuberous sclerosis complex: the neurosurgeon's perspective. World J Pediatr. 2010; 6(2): 103-10.
[PMID: 20490765]
7) Moavero R, Pinci M, Bombardieri R, et al. The management of subependymal giant cell tumors in tuberous sclerosis: a clinician's perspective. Childs Nerv Syst. 2011; 27(8): 1203-10.
[PMID: 21305305]
8) Wheless JW, Klimo P Jr. Subependymal giant cell astrocytomas in patients with tuberous sclerosis complex: considerations for surgical or pharmacotherapeutic intervention. J Child Neurol. 2014; 29(11): 1562-71.
[PMID: 24105488]
9) Northrup H, Krueger DA; International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Group. Tuberous sclerosis complex diagnostic criteria update: recommendations of the 2012 Iinternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference. Pediatr Neurol. 2013; 49(4): 243-54.
[PMID: 24053982]

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