(Ⅳ)推奨
4. 放射線治療:CQ5
  4.1 サマリー
CQ5:外科的切除の対象とならない非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して放射線治療は有用か?
推奨:非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して,外科的切除の対象とならない場合に 放射線治療を行わないことを提案する。(2D
  4.2 解説
  (1)CQの設定
 SEGAは全摘出できれば治癒が期待できる低悪性度神経膠腫(WHO grade I)である。この腫瘍に対し放射線治療が選択される機会は少ないが,他の神経膠腫と同様に考えれば手術,薬物療法が有効でない場合,放射線治療が治療選択肢として想定される。しかし,実際に放射線治療を推奨できるかどうかを決定するためには,腫瘍の縮小効果と有害事象として放射線障害等の問題を検討する必要がある。よって,下記のようにクリニカルクエスチョンに対する推奨を作成するため,アウトカムを下記のように設定した。
 CQ:外科的切除の対象とならない非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して放射線治療は有用か?
    アウトカム: 1)腫瘍コントロール率
2)有害事象・QOL低下
  (2)推奨の解説
 SEGAは腫瘍が全摘出できれば治癒が期待できる低悪性度神経膠腫(WHO grade I)であるため放射線治療が選択されることは少なく,これに関連する論文も非常に少ない。
 文献を検索すると,複数例のSEGAに対する放射線治療の効果を主に検討したのは1つの報告のみであった1)。この報告では,初期治療として4例,手術後再増大1例,手術後残存1例の計6例に対し,定位放射線治療であるガンマナイフを用いて放射線治療を行い,平均73カ月(42~90カ月)の経過観察期間では5例で腫瘍制御が可能であったとしている。それ以外では,ガンマナイフの治療効果について検討された論文の中でSEGAが含まれていたのは3つの報告2,3,8)があった。種々の脳腫瘍(137例148腫瘍)に対するガンマナイフ後の腫瘍体積を検討したParkらの報告では,低悪性度神経膠腫15例の中にSEGAが2例含まれ,この2例ではガンマナイフ後平均7カ月(4~17カ月)という非常に短い経過観察期間であるが腫瘍縮小効果があったと報告している3)。12例の低悪性度神経膠腫に対するガンマナイフの効果を検討したHendersonらの報告では,SEGAの2例中1例は治療後に増大し手術が必要になったと報告している4)。また21例の低悪性度神経膠腫に対してガンマナイフの効果を検討した報告8)にはSEGAが3例あり,その全例が治療後に腫瘍が増大し手術が必要になったと報告している。これらSEGAに対してガンマナイフが施行された上記の4つの報告1,3,4,8)の計13例中5例(38%)がガンマナイフ後に増大し,腫瘍制御の効果として十分な結果ではなかった。また,10例のSEGAの治療結果をまとめた報告5)の中で,線量など詳細な記載はなかったが,摘出後の残存病変に対し放射線治療を施行した1例が増大し手術が必要であったと報告している。これらの報告では症例数が少なく,さまざまな治療対象で,論文間で結果にばらつきがあるなどエビデンスレベルは非常に低いものではあるが,ガンマナイフがSEGAに対して腫瘍制御に十分な効果があるとはいえない。一方,ガンマナイフによる放射線治療の有害事象についてはParkらの報告のみであり,経過観察期間平均73カ月(42~90カ月)では有害事象はなかったが,さらなる症例数と長期の結果がより正確は評価には必要であると考察している1)
 分割照射においては,SEGA摘出後の残存病変に対してリニアックによる分割照射を施行し,8年後に照射野である右側頭葉内側に膠芽腫をきたした報告4)や,放射線治療の種類や線量の記載はないが,手術後再発病変に対する放射線治療の数年後にSEGAの近接部位に膠芽腫をきたした報告6)がある。このように分割照射では放射線治療後の晩期障害で二次がん(膠芽腫)が発生する可能性があり,SEGAに対して分割照射をすべきでないという報告がある4)
 以上の報告例から,SEGAに対する放射線治療としてガンマナイフによる腫瘍制御の有効性は十分ではなく,ガンマナイフによる有害事象の報告はないものの,その判定にはさらなる長期の経過観察と症例の蓄積が必要とされる。リニアックによる分割照射は腫瘍制御の効果は不明であり,放射線治療に伴う二次がんとして長期経過で膠芽腫の発生という生命予後を悪化させる重篤な有害事象が報告されているため,施行すべきではないと思われる。2012年に行われた結節性硬化症に対するInternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012の報告7)で,SEGAに対する放射線治療は治療の有効性は示されず,二次がんの発生の可能性が強調されている。結論として,報告例が少ないのでエビデンスレベルは非常に低いが,現時点でガンマナイフやリニアックによる分割照射による放射線治療は,いずれもSEGAに対して益が害を上回る有効な治療とはいえないため,行わないことを提案する。
 推奨の決定は,委員全員の投票により行われたが,全員の賛成一致で原案の推奨文が可決された。
 今後の検討課題としては,「mTOR阻害薬投与によってSEGAの縮小効果が得られないが外科的治療を施行しない場合,あるいは,SEGAの摘出後の再発病変や残存病変の増大に対し,放射線治療は有用か?」については検討する必要がある。
4.4 引用文献
   このクリニカルクエスチョンに答えるために,下記検索式にて2015年11月に文献検索を行った。
 
# 検索式 文献数
#1 "subependymal giant cell(All Fields)" 390
#2 #1 AND ("radiotherapy"[Subheading] OR "radiotherapy"[All Fields] OR "radiotherapy"[MeSH Terms]) 21
#3 #1 AND radiation 7
#4 #1 AND radiosurgery 2
   この#2,#3,#4の合計30論文で一次スクリーニングを行った。論文のabstractにおいてSEGAに対する放射線治療ではないもの,SEGAが含まれていないもの,放射線治療をしたかどうか不明なもの,薬物療法のみの記載しかないものを除外し,16論文を除外した。
 一次スクリーニングで残った14論文とこれらの論文で引用されていた4論文,計18論文において二次スクリーニングを行った。 二次スクリーニングで,reviewのみの論文およびSEGAに対して放射線治療を行っていな論文は除外し,アウトカム1)腫瘍コントロールに対して,腫瘍コントールが不明なものおよび症例報告は除外した。アウトカム2)有害事象・QOL低下に対して,有害事象に記載がないものは除外したが,このアウトカムは,重要な有害事象という「害」が含まれていたため,症例報告1論文も採用した。二次スクリーニング後に7論文が残った。
 アウトカム1)腫瘍コントロールでは,SEGAに対する放射線治療(ガンマナイフ)の効果を検討しているものは1論文1)で,この論文でも6例のみと非常に少数例の報告であった。そのため放射線治療の腫瘍縮小効果を可能な限り論文上で検討するために,さまざまな脳腫瘍に対するガンマナイフ後の腫瘍体積を検討した1論文3)のうちSEGA 2例,低悪性度神経膠腫対するガンマナイフの効果の検討した2論文2,8)のうちSEGAがそれぞれ2例と3例が含まれていたのでこれら3論文はアウトカム1)の評価のため採用した。また,一施設でSEGAに対する治療をまとめた1論文5)のうち,放射線治療を施行していたSEGA 1例が含まれていたため,この1論文もアウトカム1)の評価のため採用し,合計5論文,14例に対して検討した。
 アウトカム2)有害事象・QOL低下では, SEGAに対する放射線治療の効果を検討している論文で,有害事象の有無について記載があった1論文1)は採用した。また,SEGA 19例のうち放射線治療を行った1例で重要な有害事象を認めたと報告した1論文6)と症例報告ではあったものの,重篤な有害事象を認めた1論文4)も重要な「害」と判断したため,合計3論文を採用した。
 アウトカム1)腫瘍コントロールに関して,採用した5論文のうち,腫瘍コントロールできたものは14例中8例の57%のみであった。これらの経過観察期間は,SEGAに対するガンマナイフの効果を検討していた1論文1)の3例が,平均73カ月(42~90カ月)と記載があったものの,その他,放射線治療を施行したSEGAに対する詳細な経過観察期間は不明であり,長期に経過観察されているか不明であった。放射線治療のうちガンマナイフで検討された4論文1-3,8)の13例中5例で増大し,摘出術が必要であった。またこれらの論文のうち6例中5例で腫瘍制御が平均73カ月(42~90カ月)経過観察期間において可能であったとする報告1)や,3例中3例で増大し効果がないとする報告8)があることからも SEGAに対するガンマナイフの効果は非常にばらつきがあった。またこれらの論文では,手術後残存病変,手術後再発病変,無症候性の増大病変や無増大病変など治療対象はさまざまな状態の例であった。残りの1論文5)では放射線治療の線量,種類は不明であったが,増大し手術加療が必要であったと報告されていた。これらのことからエビデンスレベルは非常に低いものであるが,現在,SEGAに対する放射線治療の腫瘍コントロールにおいて放射線治療,ガンマナイフにおいても効果があるとは結論できない。
 放射線治療の有害事象・QOL低下である「害」に関して,採用した3論文のうち,SEGA 6例に対してガンマナイフを施行した論文1)では,経過観察期間が平均73カ月(42~90カ月)で有害事象はなかったと報告されている。症例報告の1例は,手術後残存部位に対して分割照射を施行後8年で照射野である右側頭葉内側に膠芽腫をきたした例が報告4)されている。最後の1論文6)では,放射線治療の種類や線量に記載がないが,手術後再発病変に対する放射線治療数年後にSEGAの近接部位に膠芽腫を来したと報告されている。現在,症例数が少なく,バイアスの評価も困難であるものの,SEGAという低悪性度神経膠腫に対する放射線治療の「害」の評価には,長期の経過観察が必要である。分割照射では重篤な「害」として放射線治療後の晩期障害として二次がん(膠芽腫)が発生する可能性があり,すべきでないとの報告4)がある。SEGAに対するガンマナイフは「害」の報告は現在のところ報告されてないが,長期の経過観察がさらに必要と考えられる。
 以上より,現段階でSEGAに対する放射線治療のうち,分割照射は腫瘍コントールに対する効果は不明であり,長期の経過で膠芽腫の発生という重篤な害が報告されているため,害が益を上回り,推奨できない。ガンマナイフも腫瘍コントールに対する効果に現時点で有効性は示されず,有害事象の報告はないもののその判断にはさらなる長期経過観察が必要であるため,益が害を上回るとは結論できない。現段階で,分割照射,ガンマナイフいずれもSEGAに対して益が害を上回るとはいえず有効とはいえないと判断した。
 今後,さらなる長期的な益と害に関する知見が必要と考えられた。
 これらの経過より,推奨文としては下記のような結果となった。
 「非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して,外科的切除の対象とならない場合に 放射線治療を行わないことを提案する。」
4.4 引用文献
【システマティックレビュー採用論文】
1) Park KJ, Kano H, Kondziolka D, et al. Gamma Knife surgery for subependymal giant cell astrocytomas. Clinical article. J Neurosurg. 2011; 114(3): 808-13.
[PMID: 20950089]
2) Henderson MA, Fakiris AJ, Timmerman RD, et al. Gamma knife stereotactic radiosurgery for low-grade astrocytomas. Stereotact Funct Neurosurg. 2009; 87(3): 161-7.
[PMID: 19321969]
3) Park YG, Kim EY, Chang JW, et al. Volume changes following gamma knife radiosurgery of intracranial tumors. Surg Neurol. 1997; 48(5): 488-93.
[PMID: 9352814]
4) Matsumura H, Takimoto H, Shimada N, et al. Glioblastoma following radiotherapy in a patient with tuberous sclerosis. Neurol Med Chir (Tokyo). 1998; 38(5): 287-91.
[PMID: 9640965]
5) SSinson G, Sutton LN, Yachnis AT, et al. Subependymal giant cell astrocytomas in children. Pediatr Neurosurg. 1994; 20(4): 233-9.
[PMID: 8043461]
6) SSinson G, Sutton LN, Yachnis AT, et al. Subependymal giant cell astrocytomas in children. Pediatr Neurosurg. 1994; 20(4): 233-9.
[PMID: 8043461]
7) Wang LW, Shiau CY, Chung WY, et al. Gamma Knife surgery for low-grade astrocytomas: evaluation of long-term outcome based on a 10-year experience. J Neurosurg. 2006; 105 Suppl: 127-32.
[PMID: 18503345]
【その他の参考論文】
8) Roth J, Roach ES, Bartels U, et al. Subependymal giant cell astrocytoma: diagnosis, screening, and treatment. Recommendations from the International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012. Pediatr Neurol. 2013; 49(6): 439-44.
[PMID: 24138953]

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