CQ1 成人初発膠芽腫に対する手術療法はどのような意義があるか?
推 奨
膠芽腫では,手術後の一般状態が良い場合において,手術による摘出度が高いほど,無増悪生存期間と全生存期間の改善がみられる(推奨グレードC1)。
解 説
 膠芽腫に対する手術摘出度あるいは残存腫瘍量と予後の関係に関しては,古くは術者の感覚によって手術摘出度が決定されていたこともあり,学問的信頼度は低いものであった。
 手術摘出度あるいは残存腫瘍量と予後の関係を前方視的試験にて解析した研究は,フィンランドにおいて2003年に報告された30例の65歳以上の悪性神経膠腫症例を,生検と開頭摘出術の2群に振り分けたものしか存在しない1)(レベルⅡb)。生存期間中央値は生検群が85日〔95%信頼区間(confident interval:CI):55—157〕,開頭摘出群が171日(95%CI:146—278)で,有意差が確認された〔ハザード比(hazaed ratio:HR)=2.757,95%CI:1.004—7.568,p=0.049〕が,無増悪生存期間の有意差は認められなかった(p=0.057)。このような手術摘出度をランダムに振り分ける前方視的試験は,倫理的問題から将来的にも行われる可能性はないと考えられている。したがって,膠芽腫に対する手術摘出度あるいは残存腫瘍量と予後の関係解析は,後方視的検討およびそのメタアナリシスか,さまざまな予後に関する要因をできるだけ均等にした非ランダム化前方視的試験のなかで検討するしかない。
 2001年にLacroixら2)(レベルⅢ)が,416例の初発(233例)および再発膠芽腫を用いて,MRI(magnetic resonance imaging)を用いた術前後の腫瘍容量解析を行い,98%以上の腫瘍摘出が行われた場合に有意に予後改善が得られると報告した。この論文の与えたインパクトは大きく,MRI画像上の造影領域を全摘出することが膠芽腫を手術する脳神経外科医の目標となった。初発233例に限ると,98%以上摘出された107例の生存期間中央値は13カ月,それ未満の126例では10.1カ月であり,単変量および多変量解析でも危険率0.02をもって有意と検定されている。ただし,この報告は単一施設の後方視的検討結果であることに留意する必要がある。
 Stummerらによる,5—アミノレブリン酸(5—ALA)蛍光診断を併用した膠芽腫摘出に関する前方視的臨床試験とその追跡報告3,4)(それぞれレベルⅡb,Ⅰb)は,当初の目的であった蛍光診断を用いることにより摘出度が上昇し,生命予後が改善するという結果は得られなかったものの,副次的に膠芽腫に対するMRI画像上の造影領域の全摘出の意義を明らかにした。243例の膠芽腫に対する摘出度と生命予後の検討から,全摘出した場合とそうでない場合の生存期間中央値はそれぞれ16.7カ月(95%CI:11.4—14.6)と11.8カ月(95%CI:7.2—10.2)であり,全摘出により4.9カ月の生存期間延長が得られると報告された(HR=1.752,95%CI:1.258—2.438,p=0.0004)。しかし,年齢(p=0.0123),KPS(p=0.1714),重要な部位(p=0.0231),浸潤度(p=0.1375)と両群の背景に相違があり,結果の解釈には注意が必要である。
 2011年にSanaiら5)(レベルⅢ)によって,UCSFにおいて摘出術と標準的放射線化学療法が行われた連続500例の初発膠芽腫における,手術摘出度と予後との検討が報告された。手術摘出度が78%以上であれば生命予後は改善し,95~100%といった高い摘出度になっても摘出度に応じて段階的に予後は良好となるという結果であった5)(レベルⅢ)。単一施設での後方視的試験という問題は避けられないが,比較的均一な治療が行われ,慎重な統計解析により評価されたこの報告より,膠芽腫では手術摘出度が高いほど良好な治療予後が得られると考えられる。
 以上より,膠芽腫に対しては可能であれば腫瘍容量をできる限り少なくすることを目的とした摘出術が推奨される。しかしながら,これは全症例に対して全摘出を目指すべきかどうかの方向性を決定するものではない。前述のLacroixらの検討では,MRI画像上の壊死の有無・年齢・KPSの各項目にポイントをつけて4群に分類し,MRI画像上で壊死がなく,より若年で,KPSの高い群において98%以上の摘出の意義が有意であったと報告されている2)(レベルⅡb)。さらに脳のどの領域にどのような浸潤形式で腫瘍が存在するかによって,手術適応は大きく異なり,この点に関する議論は未だ不十分であり,コンセンサスが得られていないことに注意すべきである。また手術によって生ずる神経脱落症状は決して無視できないことも常に留意しなくてはならない。目標とすべきことは,最小限の手術合併症と最大限の摘出率を達成することにある。
◆文  献
1) Vuorinen V, Hinkka S, Färkkilä M, et al. Debulking or biopsy of malignant glioma in elderly people— a randomised study. Acta Neurochir(Wien). 2003;145(1):5—10.(レベルⅡb)
2) Lacroix M, Abi—Said D, Fourney DR, et al. A multivariate analysis of 416 patients with glioblastoma multiforme:prognosis, extent of resection, and survival. J Neurosurg. 2001;95(2):190—198.(レベルⅡb)
3) Pichlmeier U, Bink A, Schackert G, et al. ALA Glioma Study Group. Resection and survival in glio-blastoma multiforme:an RTOG recursive partitioning analysis of ALA study patients. Neuro Oncol. 2008;10(6):1025—1034.(レベルⅡb)
4) Stummer W, Reulen HJ, Meinel T, et al. ALA—Glioma Study Group.Extent of resection and survival in glioblastoma multiforme:identification of and adjustment for bias. Neurosurgery. 2008;62(3):564—76;discussion 564—576.(レベルⅠb)
5) Sanai N, Polley MY, McDermott MW, et al. An extent of resection threshold for newly diagnosed glioblastomas. J Neurosurg. 2011;115(1):3—8.(レベルⅢ)

ページトップへ戻る