(高齢者治療)
CQ12 高齢者PCNSLに対してどのような治療法が推奨されるか?
推 奨
遅発性中枢神経障害の発生を軽減するため,高齢者における初発時の治療として,大量メトトレキサート(HD-MTX)療法を基盤とした導入化学療法後完全奏効(CR)となった症例については,全脳照射を減量ないし待機とした治療法を考慮する。(推奨グレードC1)
解 説
 60歳以上あるいは70歳以上の高齢者PCNSL症例に対しての治療は,全脳照射により高率に遅発性中枢神経障害の出現が生じるなど,未だ確立していない。
 治療後の遅発性神経毒性(delayed neurotoxicity)は,進行性の認知障害など,腫瘍の再発がなくとも急速に患者のQOLを低下させる主因となり,その原因の一つに全脳照射が挙げられ,近年高齢者PCNSL例に対する治療の開発動向は非照射化学療法が主体となっている。高齢者ではHD-MTX療法の毒性が懸念されるが,grade 3~4の有害事象は10%未満であり,腎機能,MTX血中濃度のモニター・管理を適切にすれば,腎機能に応じた用量の調整を行う必要はあるもののHD-MTX療法は遂行可能である1)
 60歳以上の初発高齢者PCNSLを対象とした1996〜2014年の前方視的および後方視的研究から13研究(405例)を抽出し,さらに378例の症例を追加した計783例を対象としたメタアナリシス2)の結果では,KPSが70以上で予後が良いことが示されている。またHD-MTXを基盤とする化学療法により生存期間は延長し,さらに多剤併用HD-MTX療法の方がHD-MTX単独療法よりPFSは有意に改善しOSも良好であった。さらにHD-MTXに2剤以上の経静脈的化学療法を加えた積極的治療と,HD-MTXに1剤の経口アルキル化剤(プロカルバジン(PCZ)あるいはテモゾロミド(TMZ))を加えた治療を比較したところ,積極的治療を行っても奏効割合や生存期間に有意な影響は及ぼさないことが示され,HD-MTXには経口アルキル化剤の併用が推奨される結果であった。さらに放射線治療を加えると,とりわけKPS 70未満の患者に対しては無増悪生存期間(PFS),全生存期間(OS)の延長に寄与するが,遅発性神経毒性のリスクが有意に増強することが示されている2)レベルIII)。この結果から,高齢者にもHD-MTX療法が可能であれば行うべきであり,さらに1剤のアルキル化剤を加えることも勧められる。
 現時点で唯一の第III相試験であるG-PCNSL-SG-1のサブ解析の報告では,HD-MTX基盤化学療法に対する奏効割合(44% 対 57%,p=0.016),PFS(4カ月 対 7.7カ月,p=0.014),OS(12.5カ月 対 26.2カ月,p<0.001)はいずれも有意に70歳未満に比べ70歳以上の高齢者で不良であった。Grade 3/4の白血球減少も高齢者で有意に多かった(34% 対 21%,p=0.007)。また化学療法でCRになった症例でも70歳以上の高齢者では早期に再発しており(16.1カ月 対 35カ月,p=0.024),予後改善には地固め療法,あるいは維持療法が必要であるという結果である3)レベルIII)。
 フランスのグループ(ANOCEF-GOELAMS)は60歳以上の高齢者を対象とした初のランダム化第II相試験で,2つのHD-MTXを基盤とした化学療法レジメンを比較しており,MPV-A(MTX+PCZ+ビンクリスチン,シタラビン(AraC))療法の方がHD-MTX + TMZに比較し統計的有意差はないもののPFS中央値(mPFS):9.5カ月 対 6.1 カ月,mOS:31カ月対 14 カ月と治療成績のよいことを報告した4)レベルIb)。両者の毒性は中等度と差はなく,遅発性神経毒性は認められず,同グループは今後高齢者PCNSLに対する標準治療群としてMPV-Aを基本にした治療開発を推奨している。また前述のように,少数例ではあるが,R-MPV療法に低線量全脳照射(23.4 Gy)とAra-Cによる地固めを行う治療5)や,リツキシマブ,HD-MTX,TMZ(MT-R)による導入療法後エトポシドとHD-Ara-C(EA)による地固め療法で照射は回避する治療法6)は比較的performance statusがよい高齢者に対して有望である(CQ5参照)。
 65歳以上を対象とし,HD-MTX,PCZ,ロムスチンに リツキシマブを併用した寛解導入化学療法(R-MPL)とPCZによる維持療法を施行したドイツでの単アーム第II相試験(PRIMAIN 試験)においては,CR割合は 35.5 %,PR割合 14 %,mPFS 10.3カ月,mOS 20.7カ月であった。なお初期治療で感染症の合併症が多かったため途中でプロトコール治療からロムスチンが除かれた(R-MP)。R-MPLとR-MPで予後には差はなく,grade 3以上の有害事象はR-MPLで87 %,R-MPで71.1 %,toxic deathはR-MPLで10.1 %,R-MPで5.3 %にみられ,高齢者にはR-MP療法が遂行可能であると結論した7)レベルIIa)。
 最近,Nordic Lymphoma Groupは18~65歳までの若年者に対してはリツキシマブ,HD-MTX-AraCを基盤に多剤で強化した寛解導入化学療法を行い,66~75歳までの高齢者には若年者に比べ治療強度を下げた寛解導入化学療法後,奏効したものにはTMZによる維持治療を行う第II相試験を施行した8)。導入化学療法終了後の全奏効割合(overall response rate)は若年者69.2%,高齢者80.8%,2年の生存割合は若年者で60.7 %,高齢者 55.6 %,OS中央値(mOS)はいずれの年齢群でも未到達であり,2年-PFSは若年者で33.1 %,高齢者で44.4 %であった。一方,高齢者では11 % の治療関連死を認めHD-AraCに起因するものであった。生存期間は高齢者において劣っておらず,CR後の再発も高齢者で少ない(28% vs. 63%)ことから,高齢者では若年者よりも導入化学療法の強度を下げ,TMZで維持療法を行うことが期待される治療法であると結論している(レベルIIa)。現在,維持療法の意義に関しては,HD-MTX基盤化学療法(R-MPVA)後CR症例をランダム化し毎月ごとのリツキシマブ,MTX,TMZ による維持療法を計7サイクルの有無で再発までの期間を比較する第III相試験(BLOCAGE-01(NCT02313389))がフランスで行われており,その結果が待たれる。
 以上より,高齢者PCNSLに対しても腎機能をモニターし毒性を減らす管理を適切に行えば,HD-MTXを基盤とした化学療法は可能である。全脳照射による遅発性中枢神経障害の発生を避けるため,寛解導入化学療法後CRになった症例には,通常線量の全脳照射は再発まで待機あるいは避けるべきであり,低線量全脳照射(23.4 Gy)は考慮してもよいと考えられる。高齢者は導入化学療法でCRになってもいまだPFSは短く,予後改善のためには安全で効果のある地固め療法や維持化学療法の開発が必要と考えられる。
文献検索式:
#1 (Central Nervous System Neoplasms[MH] AND Lymphoma[MH]) OR ((PCNSL[TIAB] OR "primary central nervous system lymphoma" [TIAB] OR CNS[TIAB] OR (primary[TIAB] AND brain[tiab] AND lymphoma[TIAB]) NOT MEDLINE[SB])) 14663
#2 (Aged[MH] OR elderly[tiab]) 2713925
#3 (Randomized Controlled Trial[PT] OR Meta-Analysis[PT] OR Cohort Studies[MH:noexp] OR Follow-Up Studies[MH] OR Prospective Studies[MH] OR Clinical Trial, Phase II[PT] OR Clinical Trial, Phase III[PT] OR Clinical Trial, Phase IV[PT] OR Clinical Trial[PT] OR prospective[TIAB] OR trial[TIAB]) AND (2011/4[PDAT]:2017/03[PDAT]) 656336
#4 #1 AND #2 AND #3 125
  本改訂時の新規抽出文献数:125件
抽出後追加文献数:0件
本CQへの新規追加採用文献数:7件
◆文  献:(○:本改訂にて追加された文献)
1) ●Jahnke K, Korfel A, Martus P, et al. High-dose methotrexate toxicity in elderly patients with primary central nervous system lymphoma. Ann Oncol. 2005;16(3):445-449 (レベルIII)
2) ○Kasenda B, Ferreri AJ, Marturano E, et al. First-line treatment and outcome of elderly patients with primary central nervous system lymphoma (PCNSL)--a systematic review and individual patient data meta-analysis. Ann Oncol. 2015;26(7):1305-1313 (レベルIII)
3) ○Roth P, Martus P, Kiewe P, et al. Outcome of elderly patients with primary CNS lymphoma in the G-PCNSL-SG-1 trial. Neurology. 2012;79(9):890-896 (レベルIII)
4) ○Omuro A, Chinot O, Taillandier L, et al. Methotrexate and temozolomide versus methotrexate, procarbazine, vincristine, and cytarabine for primary CNS lymphoma in an elderly population: an intergroup ANOCEF-GOELAMS randomised phase 2 trial. Lancet Haematol. 2015;2(6):e251-259 (レベルIb)
5) ○Morris PG, Correa DD, Yahalom J, et al. Rituximab, methotrexate, procarbazine, and vincristine followed by consolidation reduced-dose whole-brain radiotherapy and cytarabine in newly diagnosed primary CNS lymphoma: final results and long-term outcome. J Clin Oncol. 2013;31(31):3971-3979 (レベルIIa)
6) ○Rubenstein JL, Hsi ED, Johnson JL, et al. Intensive chemotherapy and immunotherapy in patients with newly diagnosed primary CNS lymphoma: CALGB 50202 (Alliance 50202). J Clin Oncol. 2013;31(25):3061-3068 (レベルIIa)
7) ○Fritsch K, Kasenda B, Schorb E, et al. High-dose methotrexate-based immuno-chemotherapy for elderly primary CNS lymphoma patients (PRIMAIN study). Leukemia. 2017;31(4):846-852 (レベルIIa)
8) ○Pulczynski EJ, Kuittinen O, Erlanson M, et al. Successful change of treatment strategy in elderly patients with primary central nervous system lymphoma by de-escalating induction and introducing temozolomide maintenance: results from a phase II study by the Nordic Lymphoma Group. Haematologica. 2015;100(4):534-540 (レベルIIa)

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