(Ⅳ)推奨
1. 画像診断:CQ1,CQ2
  1.1. サマリー
CQ1:結節性硬化症と診断された患者のフォローアップにおいて,頭部画像診断(MRIまたはCT)検査は無症候性SEGAの診断率を高めるために有用か?
推奨:結節性硬化症と診断された患者のフォローアップにおいて,無症候性SEGAの診断率を高めるために,頭部画像診断(MRIまたはCT)検査を行うことを提案する。(2C
CQ2:非急性症候性または無症候性のSEGA患者に対して,定期的な頭部画像診断(MRIまたはCT)検査は有用か?
推奨:非急性症候性または無症候性のSEGA患者に対して,定期的な頭部画像診断(MRIまたはCT)検査を行うことを提案する。(2C
  1.2 解説
  (1)CQの設定について
 結節性硬化症に伴う神経病変としては,SEGAのほか,皮質結節,SEN,放射状大脳白質神経細胞移動線が知られているが,臨床上SENとSEGAの鑑別が重要である。SEGAは出生時から発生していることがあるが,20~25歳以後に新たに発生することは稀である。SEGAは緩徐に増大するため,ある程度の大きさに達するまでは無症候であることが多いが,小児期から思春期にかけてモンロー孔の閉塞による水頭症で発症することが多い。また,腫瘍内出血をきたすことがある。したがって,結節性硬化症が疑われる患者では,まず診断のために神経学的評価と画像検査を行い,その後も定期的な画像検査を継続して,SEGAの発生,増大を早期に発見する必要があると考えられている。  以上に基づき,CQに対する推奨を作成するためにアウトカムを以下のように設定した。
    CQ1アウトカム:画像によりSEGAと診断した患者の割合
    CQ2アウトカム:フォローアップ画像で増大を認めた患者の割合
  (2)推奨の解説
 結節性硬化症にSEGAが合併することはよく知られているが,画像診断上のSEGAの定義については必ずしも統一された見解が存在しているわけでなく,文献ごとに異なるのが現状である。2012年に開催されたInternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012では以下のように記載されている1)
 尾状核視床溝も含むモンロー孔近傍に位置する病変で以下のいずれかを示す。
    1:最大径1cm以上
    2:経時的に増大する上衣下腫瘍(造影効果の有無を問わない)
 
頭部画像検査,具体的にはMRI/CTが結節性硬化症と診断された患者において,無症候性SEGA診断率向上の有用性評価を直接の対象とした文献は認められなかった。一方で,限定された特定地域の結節性硬化症患者を対象とした画像診断における無症候性SEGAの診断について触れた文献が1編存在した2)。この文献では英国Wessexにおける結節性硬化症有病率は人口10万人あたり4.9名であり,無症候性結節性硬化症患者でMRI検査に同意した41名中7名17%でSEGAが診断されている。結節性硬化症治療センターにおける無症候性SEGAの診断に触れた文献も1編認められた3)。この文献の施設はオランダ全土における結節性硬化症患者の3次紹介医療センターであり,造影CTを施行した214名の患者中43名20%にSEGAを認めている。両側性SEGAは43名中9名21%,水頭症合併はSEGA患者中の6名14%であった。両文献のSEGA診断基準はMonro孔周辺に存在する最大径1cm以上あるいは造影効果を伴う病変であり,いずれもCTによる診断結果である。画像診断によるSEGA診断率には症候性および無症候性の症例も含まれる。そのため,症候性に対する手術施行例のみを対象とした従来のSEGA診断率より高い。これは,頭部画像診断が無症候性SEGAの診断率を高めるために有用であることを示唆する所見と考えられる。しかし,文献としてはいずれも症例集積であり,エビデンスレベルは低い。そのためエビデンス強度はC(弱い)とした。
 SEGA自体は増大していく腫瘍である2,4-7,11)。SEGAの10%はSENから増大してくるとも言われ,SENの一部,とりわけモンロー孔周辺のSENでは経時的にSEGAに進展することがある1,7,11-13)。SEGAの増大は個人差もあり予測困難である。そのため,無症候性SENでも定期的画像経過観察が必要となる12)。経時的画像診断はSEGA前状態のSEN,あるいは発症初期のSEGAが明らかな腫瘍に増大していく過程を捉えることを可能とする1,7)。この点でも,頭部画像診断は無症候性SEGAの診断率を高めるために有用と考えられるが,文献のエビデンスレベルはいずれも低い。初回MRI/CTにてSEGAを認めなかった場合に経時的画像診断が必要か,もし必要とした場合に経過観察をどのくらいの間隔で行うか,について明確なエビデンスを示して記載した論文は認めなかった。International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012では,これまでにSEGAを発症していない無症状の結節性硬化症患者においても25歳までは1~3年毎のMRIを提言している14-16)
 注意すべきは石灰化のみのSEN病変はMRIでは診断困難であり4),ガドリニウム造影画像でも鑑別は困難な点にある5,17)。SEGAはほぼ全例石灰化を伴い,モンロー孔周辺から発生する。SENの石灰化はSEGAの石灰化より小さいが,SEGAに増大するSENはモンロー孔近傍に存在する。画像上はSENの所見のみであった5歳時より経過観察し,7歳時にSEN病変の腫瘍性増大を確認しSEGAと診断,その後12歳時に水頭症を生じた時点で手術を施行した長期経過観察例も報告されている 18)。無症候性結節性硬化症患者,とりわけ小児患児において,いずれかの時期にCT/MRIによるモンロー孔近傍部のSEN病変の存在確認は,その後のSEGAへの進展の可能性を予測する上で意義があると考えられる1,8,13)
 SEGAの診断について造影所見(+)を基にした場合と,結節の大きさ(>1cm)により診断している場合とがある。International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012では,増大しつつある腫瘍陰影を示せば大きさ・造影効果に関係なくSEGAと診断するとしている16)。また,診断法として古い論文ではCTを用い,1980年代後半以降ではMRIの占める割合が大きくなっている8,9,16)。厳密な意味で,各文献におけるSEGAの診断基準・診断法の非一貫性は明らかであるが,推奨作成にあたってはその点は考慮していないことに留意されたい。推奨の決定は,委員全員の投票により行われたが,7割以上の賛成で原案の推奨文が可決された。
 
急性症候性SEGAでは外科治療の適応となる(CQ3参照)が,非急性症候性の一部または無症候性(腫瘍増大なし)の場合は経過観察となる。SEGAは経過観察中にも増大あるいは症状増悪する可能性があり,経過観察を行うにあたっては定期的画像検査が必要となる。非急性症候性または無症候性SEGA患者に対する定期的頭部画像診断検査の有用性を直接の検討対象とした文献は認められなかった。一方で,なんらかの治療対象となった患者における経時的SEGA増大が報告されている。Franz等はmTOR阻害薬のSEGAに対する有効性と安全性確立を目的にRCTを施行したが,その中のプラセボ群37名中6名16%に平均経過観察期間9.4カ月でSEGAの増大を認めている10)。他の文献も合わせるとSEGA増大は14~49%に認められている4,6)。Franz文献はRCTに基づくものであるが,プラセボ群におけるSEGA増大はあくまで副次的結果であり,論文の主眼とは異なる。そのため,この論文を持ってエビデンスレベルを上げることは問題があると考えられるので,エビデンス強度はC(弱い)とした。
 SEGAの増大速度については個人差があるものの最大径で毎年1~10mm増大すると報告され,年平均の増大速度は4~5mmと推定されている4,6,11)。以上より,経時的に増大するSEGAに対して,非急性症候性または無症候性の時点であっても定期的に頭部画像診断検査を施行することは,急性症候性となる前段階での治療介入を可能とするので,臨床上有用と考えられる19)
 定期的頭部画像診断の頻度・期間に言及した文献は複数存在するが,RCTのような形で最適な画像診断頻度を検証した報告は認められない。SEGAの増大にはSEGA自体の大きさと,診断時の年齢が問題となる。SEGAの大きさとの関係では,Whelesらは5~10mm以上のSEGAでは3~6カ月毎,5mm以下では12カ月毎のMRI検査を勧めている20)。Jóźwiakらは1cm以上のSEGAに対しては半年毎のMRIを推奨している14)。年齢依存性に増大するSEGAでは,患者の年齢も重要である。Jóźwiakらは20歳までは2年毎のMRIが必要とし,それ以降は腫瘍の大きさが安定しているなら経過観察は不要と述べている14)。Jiangらは非手術例でSEGAが疑われたとき,あるいは手術例で全摘出できなかったときは3~6カ月毎のMRIを提言している6)。いずれの報告でも,SEGAが増大傾向にあるときは3~6カ月毎の検査を勧めている6,14,15)。CQ1の解説部分にも述べた通り,International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012では,これまでにSEGAを発症していない無症状の結節性硬化症患者において25歳までは1~3年毎のMRIを提言している14-16)。しかし,定期的画像診断の期間設定については,SEGAの増大速度以外の学術的根拠はなく,年齢・臨床経過(腫瘍増大経過)・非症候性水頭症(脳室拡大)の有無をもとに症例ごとに判断する必要があると考えられる。SEGA増大速度に関連する文献はいずれも症例集積の中での後方視的分析に基づくものであり,エビデンス強度を覆すだけの根拠はないと判断した。
 推奨の決定は,委員全員の投票により行われたが,1回目の投票で原案に対する7割以上の賛成が得られなかったため,議論と投票を繰り返し,3回目の投票で決定した。議論のポイントとなったのは推奨の強さで,エビデンスの強さと実臨床に基づく確信の強さの間に乖離が生じたためであった。議論の末,現状としては,SEGAの自然歴に関しては,稀少疾患であるがゆえにまだまだ明らかでないことが多く,エビデンスも非常に少ないので,整合性に欠ける推奨をするほどでないという結論に至った。

 最後に,CQ1,CQ2の画像診断に伴う患者・家族の負担について論じた論文は認めなかった。定期的画像診断検査に関しては,近年の報告はほとんどがMRIを用いて施行されている。しかし,小さな石灰化病変の検出はCTの方が優れている4)。また,発達障害を伴う小児の場合はMRI撮影時の鎮静麻酔施行が医療社会状況により本邦においては容易でないという特殊性を配慮すると,放射線曝露の問題は残るが,日常臨床においてはCTの有用性も考慮する必要がある[参照:MRI検査時の鎮静に関する共同提言 https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20150129.pdf(2015年1月29日に一部修正)日本小児科学会・日本小児麻酔学会・日本小児放射線学会]。どちらの検査手技を選択するかは施設毎・患者毎に個別に検討する必要があると考えられる。
 なお,CQ1に関して推奨されている画像診断は1-3年毎,CQ2に関してSEGA診断後の画像診断はSEGAの大きさにより3-12カ月毎であり,早期診断・治療介入を可能とすることを考慮すると経済的に過度の負担になるとは考えにくく,医療経済的効果に見合った資源の利用になると考えられる。

  1.3 システマティックレビュー結果
   このクリニカルクエスチョンに答えるために,結節性硬化症患者に合併するSEGAの画像診断について,下記検索式にて2015年11月に文献検索を行った。
 
# 検索式 文献数
#1 subependymal giant cell / radiology 75
#2 #1 AND diagnosis 73
#3 subependymal nodule / radiology 17
#4 #1 AND #3 5
#5 #1 OR #3 87
#6 #1 OR #3 Filters: Abstract; Humans; English 60
   検索wordはsubependymal giant cell astrocytoma, radiology,diagnosis,seubependymal noduleを用い,PubMed上でANDあるいはORで組み合わせた上で,abstract,human,englishでフィルターをかけた。その結果,60件の文献を検討対象候補とした。さらに関連文献などを通し3文献を追加した63文献を選出した。
 これらの抄録を第1回スクリーニング対象とし,CQと関連性が高いと考えられた30文献を選出した。SEGAそのものが稀少疾患であることを反映し,画像診断そのものを対象とした前方視的研究はなく,多くが症例集積・報告に準じる論文であった。
 ガイドライン作成にあたっては,この中より各CQに対応している情報を含んだ10文献を選択し,システマティックレビューを行った。
 CQ1に関しては,結節性硬化症と診断された患者において,無症候性SEGA診断率向上の有用性評価を直接の対象とした文献は認めなかった。特定地域の結節性硬化症患者を対象とした画像診断における無症候性SEGAの診断について触れた文献では無症候性結節性硬化症患者でMRI検査に同意した41名中7名17%でSEGAが診断されている。結節性硬化症治療センターにおける無症候性SEGAの診断に触れた文献では造影CTを施行した214名の患者中43名20%にSEGAを認めている。
 CQ2に関しては,定期的頭部画像診断検査の有用性を直接の検討対象とした文献は認めなかった。一方で,mTOR阻害薬のSEGAに対する有効性と安全性確立を目的にランダム化比較試験(RCT)を施行した文献において論文の主眼と異なる副次的前方視的結果ではあるが,プラセボ群37名中6名16%に平均経過観察期間9.4カ月でSEGAの増大を認めたと報告されている。他の文献も合わせるとSEGA増大は14~49%に認められている。
 なお,稀少疾患であるSEGAにおいては,症例集積・症例報告も重要となるため,内容に応じて推奨および解説作成に採用した。しかし,ここで採用した症例集積文献の中で,50例以上の母集団を持つ論文は1編のみであった。
1.4 引用文献
【システマティックレビュー採用論文】
1) Nabbout R, Santos M, Rolland Y, et al. Early diagnosis of subependymal giant cell astrocytoma in children with tuberous sclerosis. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1999; 66(3): 370-5.
[PMID: 10084537]
2) O'Callaghan FJ, Martyn CN, Renowden S, et al. Subependymal nodules, giant cell astrocytomas and the tuberous sclerosis complex: a population-based study. Arch Dis Child. 2008; 93(9): 751-4.
[PMID: 18456692]
3) Adriaensen ME, Schaefer-Prokop CM, Stijnen T, et al. Prevalence of subependymal giant cell tumors in patients with tuberous sclerosis and a review of the literature. Eur J Neurol. 2009; 16(6): 691-6.
[PMID: 19236458]
4) Cuccia V, Zuccaro G, Sosa F, et al. Subependymal giant cell astrocytoma in children with tuberous sclerosis. Childs Nerv Syst. 2003; 19(4): 232-43.
[PMID: 12715190]
5) Harter DH, Bassani L, Rodgers SD, et al. A management strategy for intraventricular subependymal giant cell astrocytomas in tuberous sclerosis complex. J Neurosurg Pediatr. 2014; 13(1): 21-8.
[PMID: 24180681]
6) Jiang T, Jia G, Ma Z,et al. The diagnosis and treatment of subependymal giant cell astrocytoma combined with tuberous sclerosis. Childs Nerv Syst. 2011; 27(1): 55-62.
[PMID: 20422196]
7) Torres OA, Roach ES, Delgado MR, et al. Early diagnosis of subependymal giant cell astrocytoma in patients with tuberous sclerosis. J Child Neurol. 1998; 13(4): 173-7.
[PMID: 9568761]
8) Altman NR, Purser RK, Post MJ. Tuberous sclerosis: characteristics at CT and MR imaging. Radiology. 1988; 167(2): 527-32.
[PMID: 3357966]
9) McMurdo SK Jr, Moore SG, Brant-Zawadzki M, et al. MR imaging of intracranial tuberous sclerosis. AJR Am J Roentgenol. 1987; 148(4): 791-6.
[PMID: 3493666]
10) Franz DN, Belousova E, Sparagana S, et al. Efficacy and safety of everolimus for subependymal giant cell astrocytomas associated with tuberous sclerosis complex (EXIST-1): a multicentre, randomised, placebo-controlled phase 3 trial. Lancet. 2013; 381(9861): 125-32.
[PMID: 23158522]
【その他の参考論文】
11) Ouyang T, Zhang N, Benjamin T, et al. Subependymal giant cell astrocytoma: current concepts, management, and future directions. Childs Nerv Syst. 2014; 30(4): 561-70.
[PMID: 24549759]
12) Nishio S, Morioka T, Suzuki S, et al. Subependymal giant cell astrocytoma: clinical and neuroimaging features of four cases. J Clin Neurosci. 2001; 8(1): 31-4.
[PMID: 11322123]
13) Northrup H, Krueger DA; International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Group. Tuberous sclerosis complex diagnostic criteria update: recommendations of the 2012 Iinternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference. Pediatr Neurol. 2013; 49(4): 243-54.
[PMID: 24053982]
14) Jóźwiak S, Nabbout R, Curatolo P; participants of the TSC Consensus Meeting for SEGA and Epilepsy Management. Management of subependymal giant cell astrocytoma (SEGA) associated with tuberous sclerosis complex (TSC): Clinical recommendations. Eur J Paediatr Neurol. 2013; 17(4): 348-52.
[PMID: 23391693]
15) Krueger DA, Northrup H; International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Group. Tuberous sclerosis complex surveillance and management: recommendations of the 2012 International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference. Pediatr Neurol. 2013; 49(4): 255-65.
[PMID: 24053983]
16) Roth J, Roach ES, Bartels U, et al. Subependymal giant cell astrocytoma: diagnosis, screening, and treatment. Recommendations from the International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012. Pediatr Neurol. 2013; 49(6): 439-44.
[PMID: 24138953]
17) Pinto Gama HP, da Rocha AJ, Braga FT, et al. Comparative analysis of MR sequences to detect structural brain lesions in tuberous sclerosis. Pediatr Radiol. 2006; 36(2): 119-25.
[PMID: 16283285]
18) Morimoto K, Mogami H. Sequential CT study of subependymal giant-cell astrocytoma associated with tuberous sclerosis. Case report. J Neurosurg. 1986; 65(6): 874-7.
[PMID: 3772487]
19) de Ribaupierre S, Dorfmüller G, Bulteau C, et al. Subependymal giant-cell astrocytomas in pediatric tuberous sclerosis disease: when should we operate? Neurosurgery. 2007; 60(1): 83-89; discussion 89-90.
[PMID: 17228255]
20) Wheless JW, Klimo P Jr. Subependymal giant cell astrocytomas in patients with tuberous sclerosis complex: considerations for surgical or pharmacotherapeutic intervention. J Child Neurol. 2014; 29(11): 1562-71.
[PMID: 24105488]

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